1.はじめに

 

 第15期資料として公開するのは、前期に引き続き為替部関係資料群の一部である。原分類では「為替」あるいは「為替管理」などの原分類記号が付されているもので、大分類「為替」のなかで「為替管理3」および「為替部関係1-3」に分類されているものである。

 

2.主要資料の紹介

(1)「為替管理3」に収録されている資料

 この分類では、為替管理法関係の資料が集まっている。最初の「外国為替管理法関係 管理番号公信索引 第一輯 附資本逃避防止法関係防止[武田1] 番号公信索引」は昭和1012月との日付が付されているが、これに続く2冊ともに為替管理法関係の「公信」の索引となっている。これによって横浜正金銀行内で管理法に関連してどのような通知・解説などが各支店に送られていたのかなどが明らかにすることができる。

 その後に続くのは、法令の概説や参考資料となる帝国議会の議事録などである。このうち、5「国債の価格計算に関する法律に就て資本逃避防止法について」(昭和78)は、東京銀行集会所が編纂した資料で『銀行通信録』558号の付録として頒布されたものである。914は外国為替管理法及関係命令についての法令集であり、昭和15年末までのものが収録されている。

 15「外国為替管理法」(昭和143)は、大阪支店詰橋本潔が実務の経験をもとにまとめた解説書、16「最新外国為替管理法解説」(昭和159)は、銀行問題研究会編で紐育インターナショナル銀行大阪支店黛勇吉が著わした解説書、17「改正外国為替管理法令解説」(昭和1611)は大蔵財務協会から発行された、大蔵省・日銀の担当者による解説書、18「外国為替管理法施行規則解説」(昭和166)は、日本銀行外国為替局がまとめたガリ版・タイプ印書の解説書である。このように外部でまとめられた法令・制度についての解説もここに収録されている。

 21「昭和13年実施為替管理法綴」は、これに対して、頭取席為替課から内外各店支配人席に送付された大蔵省令などの為替管理に関する法令・制度の変更に関する通知・解説などの内部文書の綴りであり、これ以降37までの「管理公信」なども同様の性格を持っている。また、40番台以降の「整理公信」も同様である。

 38「管理法関係文書一切ノ綴込(公布以後の分第43)(昭和1210)から41までは、表題にある枝番から知られるように不連続な書類ではあるが、大蔵省に提出された書類の控えと考えられるものである。たとえば「外国為替買入特別許可申請書(対顧客取引)」は大蔵大臣にあてた邦貨及び外貨の為替買入の申請書であり、このような申請書には対顧客取引だけでなく、「資金調整の為にする銀行間取引」も別にある。また、「信用状発行特別許可申請書」、「売為替の相殺を目的とする外国通貨を対価とする円為替買入特別許可申請書」などが綴り込まれている。この大蔵省への申請書類の控えなどは、法令や制度解説では知ることができない、為替取引と管理の実際を知ることができると考えられる重要な資料であろう。

 57は満州中央銀行が1935年に刊行した英文の社誌と思われる。続く58.59「大蔵省荒川外国為替管理部長及ビ鈴木外国為替管理部総務課長へ送付シタル東京支店使用ノ諸取引株式控」は表題通り、行内で使われている為替関係の様式の一綴りである。

 62「ロンドン支店為替管理メモ」には、対独戦開始に伴い、イングランド銀行を通じて布告された「為替管理令」などの英国為替管理制度について、昭和1498日に倫敦支店から送付された説明の文書などが含まれている。これによれば、円為替については、Authorized Dealer は香上・チャータード両行に限定されていたが、倫敦支店からイングランド銀行に依頼して両行との円為替取引が承認されたので、当面は従来通りの取引となるとの説明がある。

 

(2) 「為替部関係1」

 この分類では為替関係の取引などに関わる実際を窺い知ることができる資料が散見される。たとえば、2「為替関係書類 其ノ二 K-15(昭和58月から12)には、昭和5818日の本店支配人席から頭取席為替課にあてた「当半期ノ生糸手形出廻リ予想」という文書が収録されている。これによると、金解禁以来、市況が軟化しているなかで、正金銀行が為替の取引に慎重に望もうとしていることが伝えられている。

 また、昭和5822日の大阪支店為替メモによると、「数日来、外銀筋ノ活動ガ少シ下火トナッテ来テ居ル」として、City銀行と住友銀行が活発に為替取引を行っていた事情や、正金銀行の取引方針が為替投機の抑制効果を果たしていると報告している。金解禁実施後の為替市場で外国銀行が活発な取引を行っていたことはすでに研究史で部分的に指摘されているが、大阪の為替取引の現場では、外銀だけでなく住友銀行の動きも注視されていたことが分かる。

 このほか、規則集や取引先銀行名一覧表などがあり、10「為替雑 八」(昭和1579)は取扱状況に関する本支店の報告綴、11「財務官報告」は戦時期に日本銀行外事局から送付された海外駐在員(ストックホルム、ベルリンなど、昭和20年は主としてチューリッヒ)の報告綴りである。なお、9「為替問題特別資料」は敗戦後・占領期の史料である。

 12「外資動員関係 台湾電力対社債貸渡問題」(昭和145月~169)は、やや特異な取引事例に関する綴りとなっている。これに含まれている、昭和1481日頭取席為替課から紐育支店支配人にあてた書簡によると、台湾電力社債の買入償還について、145000ドル分の同社所有有価証券の売却によって資金を充当することとしていたが、証券を紐育に転送し、売却するまでの間に「時期を失する」おそれがあるために、紐育支店所有有価証券を一時借用して償還資金とすることとなり、この方針が本店から紐育支店に通知され、これに沿った処理を求めているものである。

 

(3)「為替部関係2」

 昭和2年から3年にかけて頭取席為替課からの「発電」の綴りとなっており、それらは為替相場や資金ポジションに関する報告類が主たる内容となっている。

 9「頭取席為替課・内国課、本店、東京、大連各店間 重要書信 本店支配人席 昭和六年六月~十二月」では、金解禁政策が継続されるかどうかの切迫した時期に関する貴重な資料がある。すなわち、昭和61113日に東京支店支配人から横浜本店支配人席宛の書簡によると、三井物産株式会社の為替取引についての正金銀行の統制売のうち1000万ドルを同社の「懇望」により昭和73月まで乗り換えることを認めたことが知らされている。

 この書簡には次のような覚書が付されている。

 覚書

 第壱、正金銀行売三井物産買ニ係ル昭和六年拾壹、拾弐月中受渡米貨電送為替約定(両者ノ横浜、大阪支店ヲ含ム)現在高ノ内米貨壹千萬弗ノ受渡ヲ昭和七年参月ニ其儘延期ス

 第貳、三井物産ハ拾弐月末迄ニ米貨壹千萬弗ノ生糸輸出ビルヲ横浜ニテ正金銀行ニ売渡ス事ニ努力スルモ若シ同月中此金額ニ達セシメ能ハサル場合ニハ遅クトモ壹月中ニ其完結ヲ期ス

 第参、正金銀行買取ノ三井物産生糸ビルハ本申合ニ依ルモノタルト輸入品見合ノモノタルトハヲ問ハス正金銀行ノ横浜ニ於ケル同種ビル同日ノ買相場ニ依ルモノトス(此現在率トTT売率トノ差ハ百圓ニ付米貨五拾仙ナリ)

 右申合ノ證トシテ本書弐通ヲ作成シ各其壹通ヲ保有スルモノ也

 昭和六年拾壹月拾弐日

              横浜正金銀行   東京店長 柏木秀茂

              三井物産株式会社 会計課長 大田静男

 

 10「為替課来信(為替管理公信)」以降、57までの「公信」との表題のある資料は、これまでに出てきた同様のタイトル資料と類似するもので、頭取席為替課から各地支配人にあてた制度変更などについての説明・通知である。

 この中で、13「為替管理公信」(昭和13)には、以下のような「本行在外資金ノ事」と題する報告が内外各店支配人に送られている。

  昭和131220日英米両店金繰予算       各月資金過不足を順次繰越せば

  各月資金過不足次の如し          各月末資金過不足次の如し

  12月中不足          $ 9,100,000        12月末不足  $ 9,100,000

  1月中不足           $20,000,000       1月中不足     $29,600,000

  2月中不足          $20,000,000        2月中不足    $49,600,000

  3月中不足           $21,000,000        3月中不足     $71,200,000

 この金繰表は、上記に「金資金勘定金地金」や日銀からの売り戻し、上海会館預金の回金などを加減して見込額が計算されていた。こうしたかたちで、資金繰り実態が各店に通知されていた。不足分が大きく、日中戦争期の厳しい外貨事情がうかがえる。

 また、22「為替課公信 昭和十五年度上半季」などでは「内地満州各店ニ於ケル対三井物産株式会社外国為替取引高」があり、同様に三菱商事との取引高が表示されている。このうち、三井物産分について抽出すると以下のような月次の為替取引高が明らかになる。

 

  「為替公信」昭和13年度、15年度下半期などから作成。

 






































(4)
「為替部関係3」

 この分類に含まれる資料点数は10点と少ないが、今回公開される資料のなかでは数少ない大正後半期に関する資料がある。

 すなわち、1「頭取席通達 本店支配人席 大正十二~十四年」に含まれる大正131112日付け頭取席より発信の書簡は、大正9年に破綻を来した高島屋飯田株式会社に対する信用取引割当についての通知や、大正131013日付けの頭取席内国課から本店支配人席宛の横浜生糸株式会社生産取引に関する報告が含まれている。ごく少数だが資料の少ない時期だけに貴重なものと思われる。

 

3.おわりに

 以上のような諸資料を含むのが第15期に公開される資料群である。為替関係の資料はそれが正金銀行の本業であるだけに数が多く、その中に重複も含まれているという難点がある。しかし、資料の現状をありのままに公開することが必要と考えて、牛歩のような作業を続けている。為替関係の資料も残り少なくなったから、少しゴールが見えてきた。引き続き順を追って公開していきたい。

 最後に、これまでの資料解題でも述べたように、収録にあたっては、個人のプライバシーなどに配慮すべき点は配慮し、歴史的な事実として公開しうる範囲に限定して、研究目的の学術資料として公開するという原則をまもることを指針としてきた。これは、貴重な資料を寄贈しマイクロフィルム資料として公開することを認めてくださった原所蔵者である東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)の強い要請でもある。このような学術研究にとってかけがえのない資料を公開するためには、利用する研究者の側も遵守すべきルールがあることを、私たちは片時も忘れるわけにはいかない。そのことについては、繰り返し注意を喚起し、また、そうした明確なルールに基づいて資料が利用されることによって、今後一層の資料の保存・公開が可能になるということを、本資料の利用者の皆さんに特にお願いして、解題の筆を擱くことにしたい。

                                                      20191030日記

横浜正金銀行資料マイクロフィルム

第15期解題

東京大学名誉教授 武田晴人