1.はじめに

 

 第14期資料として公開するのは、為替部関係資料群の一部である。原分類では「為替」あるいは「為替管理」などの原分類記号が付されているもので、大分類「為替」のなかで「為替2(「為替1」は第12期に収録済み)および「為替管理2」は、整理部が番号を付して整理したものであり、「為替管理1」は、整理部整理以前に整理が行われて番号が付されている。原則としてその原番号を生かした順序で配列されている。また、添付番号を生かした番号づけをしているために、今回公開される資料では飛び番号が発生しているが、その空白の番号に該当する資料の所在は不明である。

 

2.主要資料の紹介

(1) 「為替2」に収録されている資料

 「為替2」は「01爪哇(代行記帳、爪哇銀行)関係」と題する資料から始まる。これは昭和15年末に成立した蘭印銀行との金融協定(昭和161月実施)に関連する各支店と蘭印銀行との為替取引の記録である。このように為替関係資料は、個々の取引関係などに即してまとめられた資料群が極めて多く、戦時期における為替取引の広がりに応じて多種の資料が含まれている。

 この後に続く「03公定相場関係」「04為替集中並公定相場関係」は昭和17年はじめから実施された日貨基準の「公定相場」に関する資料の綴りである。具体的には、日貨基準の「公定相場」が仏領印度支那貨、泰国貨、独逸国貨、伊太利国貨、仏蘭西国貨、瑞西国貨、瑞典国貨、葡萄牙国貨、亜爾然丁国貨、智利国貨、秘露国貨、伯剌西爾国貨について定められる一方、「指定サルベキ敵性国通貨為替相場表」が提示され、それらはイギリスポンドなどのポンド圏通貨、米ドルなどである。

 横浜正金銀行にとって問題であったのは、この公定相場の運用面にあったようである。昭和171125日付け「公定相場ニ就イテ」と題する頭取席為替部文書では、「現行公定相場ニ對スル誤解カラ実際取引ニ適用スル為替相場ニ誤謬ヲ生ズル虞ガアル様デスカラ」と公定相場についての説明を通知している。それによると、公定相場に定めのある手数料は、公定相場の1万分の25を横浜正金銀行が取得し、残余は政府に納付される「補償料」から構成されていた。ところが、取引先に対する手数料の「免除」が行われる場合に、公定相場の手数料全額が免除されるような取引事例が生じていたようであった。そのためこの文書では、「行内ノ取引ト雖少クトモ補償料丈ハ絶対ニ公定相場ニ加減シテ適用サレネバナリマセン」と注意を喚起していた。為替統制という新しい事態のなかで、取引の現場に対して正当な手続きがなかなか浸透せず、混乱が生じていたのではないかと思われる。特殊銀行とはいえ営利企業の性格も併せ持っている横浜正金にとって、統制に関わるコストの持ち出しだけは避けたかったということであろう。

 為替集中制に関連する具体的な記録は、このほか「35蘭印貨集中関係」及び「36法幣為替持高集中関係」以下の法幣為替持高集中勘定の記録などがある。

「為替2」では「07海外各国凍結令関係」、6冊の「0914外貨補償集中関係」綴りが続いている。凍結令関係の綴りは、「海外ニ於ケル凍結令ニ関スル件」と題する各地の実施状況に関する一連の25点の資料が収録されている。外貨補償集中関係の綴りは、外貨手形の代わり金の回収に関わる手続き等についての記録である。収録されている昭和17825日付けの文書によると、「外貨手形代リ金ガ邦貨ヲ以テ回金サレタル場合集中勘定ヨリ買戻外貨額ハ右邦貨額ノ出来値ヲ以テ集中ノ件」として、「欧州大陸諸国ハ第二次欧州大戦勃発後相次イデ悉ク独逸ノ占領スル處ト相成リタル為メ之等各国向英貨輸出手形代リ金ノ倫敦決済ハ事実上不可能ト相成候ノミナラズ、独逸向回金ノ上 Inlandmark を以テ同国内ニ留保ノ事ト相成申候、依而一昨年来独逸帝銀ト屡次ニ亘ル交渉ノ結果現在当行伯林支店受取為替尻利息ニシテ売上猶豫セラレ居ル約百六十萬圓ニ對シ特ニ前記Inlandmarkヲ圓貨ヲ以テ本邦向回金方許可ヲ得タル次第ニ有之従テ代リ金ハ総テ邦貨ヲ以テ弊行伯林支店経由本邦向送金サルルコトトナリタル為メ倫敦向買為替取消ヲ見ルコトト相成申候」と説明している。

続く「15外国通貨関係」は外貨買取に関する大蔵省に対する報告書などで構成されている。その中には、外交官交換船浅間丸などで帰国した者からの保有外貨の買取の記録もあり、野村吉三郎、都留重人、鶴見俊輔などの名前も見える。

48大蔵省輸入許可額ト本行取扱高」は、右の表のように昭和1516年において、大蔵省が為替を許可した金額と横浜正金銀行の取扱高の推移を示すものである(原表は月次データ)。全般に横浜正金銀行の圧倒的な地位が示されていると同時に、機械、綿花においてその地位が小さいことが注目される。

49三井三菱輸出入為替取扱高表」は、二大商社の昭和17年度の地域別為 替取扱高の記録がある。一部を表として掲出すると右の通りであるが、タイとの取引では三菱商事、仏印については三井物産が圧倒的な取引額を示して、二社が業務を棲み分けていた様子が明らかになる。また、輸出において三井物産の取扱高が三菱商事の二倍近い開きがある一方、輸入面では三菱商事が三井物産に肉薄しているなど、「大東亜共栄圏」における両社の活動基盤などを明らかにする手がかりとなる資料である。

「為替2」の末尾には敗戦前後から戦後期に関する綴りが一部収録されている。原資料の整理番号が飛んでいることから、この空いた番号の資料は、現用文書として東京銀行に継承されたのではないかと推測されるが、詳細は明らかではなく現存は確認できない。

(2)「為替管理」に収録されている資料

 「為替管理1」の冒頭に収録されているのは「管理公信控綴込」と題する資料で、昭和8年から19年までの為替管理に関する業務の基礎資料と推定されるものである。「01管理公信控綴込」の冒頭は、「外国為替管理法公布ノコト」という文書で、以下通し番号を付した資料が綴り込まれている。この資料は第1147号まであるが、このほかに昭和149月から「号外」として作成された文書も含んでいる。添付番号12以降は、その内容分類別の目録であり、15は号外の索引となっている。

 また、16以降は大蔵省および日本銀行からの通牒等が綴られた文書であるが、その数量は昭和1340件、1454件、15117件、16100件、1777件が確認できる。日中戦争末期から太平洋戦争開戦までの時期に通牒等が数多く出され、為替管理・統制に関連する網の目が精緻化していったことを反映しているものと推定される。

 同種の文書類として「為替管理2」の冒頭にある「為替管理法関係文書一切綴込」とタイトルがつけられた資料である。この為替管理関係の資料にはタイトルに「三A」とか「五C」という符号が付されているものが散見されるが、これらは資料の内容に即して横浜正金銀行内で用いられていた分類のようである。内容との対比などによって可能な範囲で、その符号の意味を再現すると次の通りである。

 三 解説 A 一般  B 為替取引  C 預金・消費貸借  D 委託支払

E 無為替輸入  F 無為替輸出  G 証券 H 信用状

I 通貨  J 送金  K 移民  L 官庁  M 確認

N 保証

 四 報告 A 月報(共通事項、1号表、5号表---いずれも外為法に基づく報告表)

B その他月報  C 旬報  D 日報  E 其都度報告

F 報告書リスト  G 報告一般注意  H 雑報告  I 旧報告

五 許可及承認 A 各月包括許可及付帯注意等  

B 許可申請及び許可証に関するもの  C 承認申請に関すること

 六 手続及取扱 A 各店手続及取扱上の注意  

B 帰朝者、旅行者の証券及び紙幣の保護預り C 輸出入税関一般 

七 送り状・雑報 A 諸送り状  B 管理公信索引送り状

などである。大きな分類の一と二は手がかりに乏しいが、「為替管理2」の「01管理公信各法令」から、「一 各法令」「二 外国為替銀行」ではなかったかと推定することができる。

 以上のように「為替管理」に関する資料群は、銀行内外の手続き等に関する業務参考資料という性格の強いものであるが、中には戦時期の「東京為替会」の協定に関する資料(「為替管理2の1416)もある。また、「34昭和十二年大蔵省令第一号ニ依ル当行願出許可申請書」には銀及び金地金の輸出許可申請(昭和18年まで)が、また「35為替管理法ニ関スル許可申請書」には日本銀行券の現送に関する申請が綴られるなど、実際のオペレーションの記録も散見される。このほか、「為替管理1」の「27大蔵省及ビ日本銀行関係往復書信控綴込」などをつぶさに見れば、昭和12年頃からの横浜正金銀行の輸入信用状の発行状況など興味深い資料を見出すことも出来る。

 

 

3.おわりに

 以上のような諸資料を含むのが第14期に公開される資料群である。いずれも新しい発見に満ちた資料群であり、すでに公開に供されているさまざまな関係資料とつきあわせることによって実り多い成果が期待できる。なお、後続する為替関係の資料についても順を追って公開していきたいと考えている。

 最後に、これまでの資料解題でも述べたように、収録にあたっては、個人のプライバシーなどに配慮すべき点は配慮し、歴史的な事実として公開しうる範囲に限定して、研究目的の学術資料として公開するという原則をまもることを指針としてきた。これは、貴重な資料を寄贈しマイクロフィルム資料として公開することを認めてくださった原所蔵者である東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)の強い要請でもある。このような学術研究にとってかけがえのない資料を公開するためには、利用する研究者の側も遵守すべきルールがあることを、私たちは片時も忘れるわけにはいかない。そのことについては、繰り返し注意を喚起し、また、そうした明確なルールに基づいて資料が利用されることによって、今後一層の資料の保存・公開が可能になるということを、本資料の利用者の皆さんに特にお願いして、解題の筆を擱くことにしたい。

                                                      20181111日記

横浜正金銀行資料マイクロフィルム

第14期解題

東京大学名誉教授 武田晴人